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友の会活動交流集会での講演(要旨)

2.足立区の経験とその特徴

03年1月21日 更新

(2)住民運動の中での勝利と前進

・住民運動の中で争点が浮き彫りに

 皆さんご承知と思いますが、足立区は東京の中でも比較的低所得層の多い区です。私どもは毎年のように、乳幼児の医療費無料化の要求等で、対区交渉とかをやるのですけれども、「うちの区は、お金がないから、貧乏だから」と説明されると、「やっぱりそうなのかな」とついこちらも思ってしまう区なのです。もちろん下町のいいところも沢山あるんですよ。

 ところが、その一方で「足立区は行革先進区だ」なんて威張っていたようなところでして、学校給食の民間委託などというのは、全国に先駆けて手を付ける。その一方で、いわゆる大型開発みたいなものに、どんどんお金をつぎ込むというような、そういう意味でも先進的なところでもあったわけです。そして、何をやったかといったら、豪華な区役所を建てる。豪華な区役所というのは、皆さん、イメージが湧かないと思うのです。建物だけで、511億円かかっています。東京都庁舎の建物が1,500億ぐらいですからね。本当は、500億にしたら、ちょっと粗末。地盤が悪かったから地下の工事に相当お金がかかったと、言い訳していますが、巷のうわさでは、3割、4割、みんなよってたかって喰っちゃったのではないかと言われています。関連経費を含めると700億円もかけて豪華な区役所を建設する。

 足立は、だいたい人口が62万から63万ですから、年間の一般会計の規模は2千億ぐらいの規模ですけれども、とにかく700億近くお金をつぎ込む。今度は、その移転した跡地にホテルを建てようといういうことを計画したわけです。

 ですから、まともな区民なら、怒るわけです。どうもおかしいと。いくらなんでも、「貧乏だ、貧乏だ」と言っても、そんな立派な区役所を建てて、なおかつ、その跡地にホテルを建てると。誰が泊まるのだと。「田舎から、おじいちゃん、おばあちゃんが出てきたときに、泊まるのです」と、苦しい言い訳をしてましたけれども。足立区はビジネスホテルみたいのはあるのです。本音は何かステイタス・シンボルみたいなものが欲しかったらしいのです。だけども、多くの区民の中に、いわゆる保守といわれる人の中にも、「お金の使い方がどうもおかしい」という声が起きました。保守の有力者というのは、高額納税者も多いのです。自分もいっぱい税金を納めているのだから、やっぱり税金はちゃんとまともに使ってほしいという点では、同じ気持ちです。そういう中で、これを何とかやめさせようと住民の運動が盛り上がってきました。

 そういうことで、96年(平成8年)の9月に区長選挙を迎えるわけですが、その年の3月に、こんな大事なことを決めるのなら、住民投票をやれという署名運動がすすめられました。ふり返ってみますと、ちょうどその頃、新潟県巻町の住民投票などがあって、うちも住民投票をやろうということになりまして、だいたい3月のひと月ですよね。期間も区切られているのですが、この期間に住民投票を要求する署名をやったわけです。

 この住民投票の署名というのは、結構厄介な署名なのです。私もやっていて、びっくりしたのですが、住民投票というのは、1人ひとりが名前を書いて、ちゃんとハンコをついて、これがあとで選管でちゃんと点検を受けるのです。そういう非常に厄介な手続きです。それを集めるのが受認者です。受認者というのは、署名を集める総括責任者みたいなものです。こういう人も、どんどん増えまして5千人を超えました。1ヶ月ぐらいの間に、60万ちょっとの人口ですけれども、6万を超える署名が集まる。これだけ子どもからお年寄りまで含めて、住民の1割ぐらいの署名が集まると、だいたい街中でホテルということを知らない人がいないぐらいの状況です。みんなのうわさになるぐらいの。そういう住民の運動が、3月にあったのです。

 これが議会に持ち込まれて、あっという間に蹴飛ばされて否決される。こういうことがありましたから、これはもうあとはいよいよ区長選しかないと。ちょうど半年後が区長選ですから、このような住民の運動の高まりの中で、しかもお金の使い方という問題で、非常に争点が住民の中にも浸透して、住民運動の中で争点が浮かび上がってくる。こういう中で、いよいよこれは、やっぱり区民の声をきちっと受けとめる区長を選んでやらなければだめだと、こういう流れの中で、区長選を迎えたわけです。

 だいたい勝つときというのは、いろんなことが重なるのです。先ほど言った、豪華な区役所のこけら落としというのが、実はその年の5月の連休だったのです。さらにいざ選挙になりましたら、保守陣営は2つに割れました。まさか負けるとは思っていなかったのでしょうね。結果は私が取った票がだいたい7万ちょっとです。保守がちょうどうまい具合に半々くらいになりました。その後私は「漁夫の利」とか言われましたが、勝つ時にはそういうことが重なるものなのです。こういう中で区長選挙に勝利しました。

 ですからよくいうのですけれども、「世直しドクター」と、担がれた人もいるのですけれども、実はこういう運動があって、住民の運動の中で争点が浮き彫りになってくる。こういうことがあって初めて勝利というのが勝ち取られるのです。

・住民の運動・世論が元気の源

 同時に、住民のそういう運動がいかに大事かというのは、むしろ区長になったあとにすごく感じたことなのです。多少新聞等で見られていると思いますが、とにかく最初の数ヶ月は猛攻撃です。足立というのは、今、議会は定数が56なのです。それで56ということは半数が28ですから、その半分が4分の1というのは14ですよね。ところが、与党というのが、今はちょっと増えましたけれども、その当時は共産党が10人に新社会党が1人で、与党が11人しかいなかった。定数の4分の1もいなかったのです。首長というのは相当法律によって守られていて、そう簡単にクビにはできない、不信任にするためには4分の3が必要です。ところが強引にやろうと思えばいつでも不信任にできるような議会の力関係でした。ここが他の自治体ちょっとわけの違うところなのです。そういう少数与党の中での革新民主の区政の出発でしたから、率直に言ってこれは、相当いろいろ妥協もしながらやらないとうまくいかないのではないか、と思っていました。議会の力関係からはそうなります。

 そうしましたら、議会が始まると猛攻撃。とにかく、相手は素人が来たなと思っていますから、「全部区長答えろ」と言って、夜な夜な深夜まで、場合によっては明け方ぐらいまで延々と攻撃をする。こういう猛攻撃が始まりました。

 よく「区長は大変ですね」と言われますが、体力がないと勤まりません。幸いなことに私は、昔は鉄マンアトムと言われたくらい、体力には自信がありまして、夜な夜なやっていたけれど、そのうちに攻撃をしている方がくたびれました。しかし体力も大事なんですが、物理的な大変さというより、率直に言って精神的に大変だったのは、初めの3ケ月ぐらいなのです。

 というのは、みんなの力でようやくつくりあげた新しい政治の流れを、私が頭にきたからといって、何か言ってつぶしてしまうわけにもいかないなという思いがありました。それから、こういう市長選挙とか区長選挙とかは、オリンピックじゃないですけれども、4年に1回のイベントで、しかも負けるのが当たり前。足立だってそれまでは勝ったことがなかったのですから。それで、選挙が終わると「よくがんばったね」と、「みんなご苦労さん」というのでまた家にそれぞれ帰っていくというというのが4年サイクルでずっと続いてきたわけです。だから選挙に勝ったときは、もうみんな「バンザイ」と言っているのですが頭の中は真っ白になったようです。ところが長年染みついたこの体質というのは変わらないもので、「バンザイ、ああよかった、よかった」と言って、「じゃあご苦労さん」と言って家に帰ったのです、「がんばってね」と言いながら。

 これではダメです。選挙に勝つというのは、何か双六のあがりみたいなものではありません。これからが新たな出発なわけですから、勝っても何もやらなければ意味がないわけでしょう。住民の声がきちんと届く新しい政治の流れをつくるということが目標なわけですから。

 ところが実際に始まってみたら選挙には勝ったはいいけれども、議会の猛烈な抵抗で一歩も前に進めない、こういう状況になってきたわけです。なんとか妥協してという考えは甘かった。住民の運動の中で勝ち取った、つくりあげた民主的な区政ですから、やはり住民の運動だとか世論の支えがないと一歩も前に進まないぞということが、事実で明らかになってくるわけです。それでもう1回意思統一をして、区議会の中でどのようなことがやられているのか、その実態をもっと区民に知ってもらおう、それからみんなで議会の傍聴にも押しかけようと確認して、もう1回戦線を立て直しました。

 しかしいったん家に帰った人を連れ戻すというのは結構大変なんですよね。2〜3ヶ月かかりましたけれども、ようやく12月頃になったら議会の傍聴にも区民がたくさん押しかけて来るようになりました。「ああ、ようやく援軍が来たな」という気持ちです。本当に住民に支えられているんだという確信がないと、やはり不安な気持ちになるものです。住民の運動の中でつくる、そして住民の運動や住民の世論に支えられて初めて前に進めるんだと、そういうことをすごく感じました。だからいろんな抵抗の中で一歩一歩、歩みを進めるというのは本当に勇気のいることですけれども、そういう住民の運動こそがその勇気の源なんだと痛感しました。

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