(4)行政の経験から
・「住民運動」と「政策活動」は車の両輪
さて、行政の首長としての仕事に就いてみて、いろいろなことを感じましたが、そのいくつかについてお話します。1つは、やはり住民の運動や世論の支えというのがないと、なかなか前へ進まないということ、これが1つ大事な点ですけれど、もう1つは、やはり政策的な活動が本当に大事だと感じました。最近はよくアカウンタビリティとか説明責任とか言われますが、その大切さを痛感しました。いくつか例をあげて話したいと思います。
たとえば行政の仕事というのは、理由なくやられていることは1つもないのです。ちゃんと、これこれしかじかこういう理由で、こういう事業をやりますということになっているのです。こういう法律に基づいて、こういうふうにやりますと。だから、何か気分でやっているわけではない。ちゃんと理屈が全部ついているのです。区長に就任していろいろと説明を受けると、幹部職員が、これはこうでこうでと全部1つ1つ説明をするわけです。それを全部聞いてみると、みんな1つ1つちゃんともっともらしい理由になっているのです。結局、合計してみると、今まで通りにやりましょうという結論になるのです。
1つ1つとるとみんなもっともらしいのですが、全部合計すると、今まで通りになってしまいますから、やはり根本のところからきちんと、お金の使い方を切り替えていくことをやっていかなければならないと思いました。
それから、今日のレジュメを見せていただいたら、住民サイドもゴミの問題から平和の問題から子育ての問題から、住民自身がそういうものに関わっていこうという運動が広がっているんだなと思いましたが、実際に行政の仕事というのは相当幅広く、今まであまり考えてもいなかったようなことも沢山ありました。
例えば、区画整理や駅前の再開発など、住民の中にもいろいろ意見があり、一般論では解決できない問題もあります。何かバッティングセンターみたいだなと思いました。バッティングセンターというのは皆さん知っていると思いますが、コインを入れると次々球が来て、全部打つのです。野党の時代は、悪い球が来たら見逃しておいて、「反対」と言っていればそれでそれなりに責任を果たしたことになりましたが、与党になりますとそうはいかないのです。何か苦手な球が来ても、とにかく全部打たなくてはいけませんから、これが忙しいこと。次々球が来ますから、カンカンカンカン打ち続けて、時々ファールチップもでたりして、そういう意味では、住民の暮らし全体に責任をもっていくということは、得意科目ばかりではなくて、すべてのことについてしっかりと、政策的な研究も進めておかなければいけないのだなと感じました。
・財政危機、行政の行革とは
もう1つ例をあげますと、議会でこういうことがありました。吉田区長は行革をやるのかと。これは自民党の人や公明党の人がよく言いましたし、ビラにも「行革をやらない」とか「職員に甘い」とかいろいろ書きました。それで論戦になるわけです。私は必死に、行政を改革するということはいったい何だろう、と考えました。その上で「行政改革をやります」と言いました。
今まで足立区で行革というと、人のクビを切ってリストラするみたいなことだと受け取られていた。だから、私が「行政改革をやります」といったら共産党の人がみんなびっくりしてギョッとしたような顔をしていました。しかし私が言うのは、皆さんが言っている行政改革とは違うんだと。皆さんが言っているのはリストラをやれといっているようなものだ。「財政が厳しいから行革をやれ」と言ってるだけだ。たしかに財政が厳しいということは、みんな共通の認識になっているのです。そう甘くはない、財政はなかなか厳しいものがあると。
しかしこれは会社に例えてみると、私が社長になったけれど、これまでの経営者によって会社の経営がやや傾いてきている。そのときに新社長は何をやるんだと。真っ先にやるべきことは、何でこんなに業績が悪化して経営が悪くなったのか、その原因をきちんと明らかにするということだ。それがまず最初にやらなければならない仕事でしょうと。そして何で悪くなったのか、そこにメスを入れない限り、そこを曖昧にしておいてリストラだと言えば、社員が怒るでしょうと。
区で言えば社員というのは区民であり、区の職員でもあるわけです。ところで何で経営状態が悪くなったのか。何か福祉を他の自治体に比べて過剰に充実させてしまったために、こんなに財政状態が悪くなったんですかと、そうではないでしょうと。では何か。それはこんな豪華な区役所を建てたりホテルを計画したり、そのようなお金の使い方をしていて経営状態がこんなに悪くなったのですから、そこにメスを入れる。これが社長がやるべき最初の仕事であって、その上で職員にもいろいろ協力を求めることはあり得ることだけれども、一番肝腎要のことをやらないでおいて、リストラだなんていうのは、社長としては失格なんだと。
ですから、私が言う行政改革は、まずはいろいろな施策の優先度、優先順位をきちんと見直すこと。つまりお金の使い方を何に重点を置いていくのか、そういうことをきちんと見直すということが、私の行政改革の第1の仕事です。他にも無駄を省きますとか、いろいろ情報公開を進めますというようなことも言いました。そのように議会の論戦の中で言いましたら、それ以来あまり行革、行革と言わなくなってしまいました。行革と言うと、必ずその話が出るものですから。やはり住民にもわかりやすい言葉できちんと説明ができる、そういう政策的な活動というのが本当に大事だなと思いました。
・公共の責任とは
先程の報告を聞いていても感じたことですが、大事なことの1つは、論理をきちんと組み立てること。行政の仕事というのは非常に理屈立ってきちんとやられている、また法律に基づいてやられていますから、そういうことも含めて、だからこうなんだということを説明できる力、対案を示せるような力、これが必要です。それからもう1つ大事なことは、なんといっても住民の実態から出発をして、今住民がどういう現状になのかと、こういうことを明らかにして、そのために何をすべきかを示すこと。このような政策的な活動が、本当に大事になっていると思います。
これから介護保険の改善などに取り組んでいく上でも、そういう点は非常に大事だと思っています。支給限度額の問題などもそうです。皆さんご承知のように介護保険というのは、高齢者の福祉や介護の中の身体介護の部分をカバーしています。重要な部分ですが全てではない。介護保険法の上に、老人保健法だとか老人福祉法という、広い意味で老人の福祉を規定している法律があるわけです。介護保険法というのはその一部なのです。あたかも介護保険ですべてお年寄りの福祉がやれる、というふうに考えがちなんですけれども、そうではないのです。
特別養護老人ホームの例をあげるとよくわかると思うのですけれども、特別養護老人ホームの前に養護老人ホームというのがありました。特別ではない、昔の養老院です。これはたしか老人福祉法や何かに基づいてつくられていたと思いますが、ここに入る人は、別に体が動かないというだけではなくて、いろいろ生活上の理由だとか家族の条件などの理由で入っていたのです。それが高齢化が進みまして、身体介護が非常に必要な人が増えてきたので、養護老人ホームのなかから特別養護老人ホームというのができたわけです。特に介護が必要な人が特別養護老人ホームに入るようになった。
ところが今度は介護保険になったものですから、今までは生活の条件だとか経済的な理由だとかそういうことで入っていた人が、「あなたは元気だから出なければいけない」みたいな問題が現実には出てきているわけです。
そうしますと、本当に広い意味での福祉というのは、介護保険だけでは賄えませんからも、老人福祉法などに基づいた生活の支援の問題などをどうするんだ、というようなことがでてきます。そういうところから、もう少し改善の手だてが見つからないのかと、いろいろと実際の介護保険の改善の運動の中で、在宅の人の実態調査をやったりして、取り組んでいると思います。そういう中で1つは実態から、もう1つは法律的な面から、何か具体的な改善を勝ち取る法的な根拠というのがないのかと、こういう両面から頭もひねり、みんなで知恵を出し合いながら運動を進めることが求められています。
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